個人的なハーモニー (アニメーションはおもしろい)
昨年、『レッドタートル ある島の物語』や『ソング・オブ・ザ・シー』といった素晴らしい長編新作アニメーションや、ユーリ・ノルシュテイン作品の修復版の劇場公開などを観て、アニメーションに興味を持った。
それでちょうど昨年末に出版されていたこの本を読んだ。
個人的なハーモニー ノルシュテインと現代アニメーション論 | 動く出版社 フィルムアート社
本の内容は、ノルシュテインの『話の話』がアニメーション史に燦然と輝く大傑作とされながら、あまりに謎めいているその内容が観客や研究者の理解や解釈を拒み続けているという事実を足がかりに、『話の話』を様々な文脈から読み解こうとする先行研究から視点を変え、『話の話』が謎めいているのは、ノルシュテインの「個人的な」作品だからであり、そのような作家にとっての「個人的な」世界を創出しうることこそが、アニメーションの持つ最も重要な特質なのではないかと仮説を立て、「個人的な」アニメーションがどのように生まれ、観客の認知や現実の世界とどのように響き合うのか(本書ではその共鳴を「個人的なハーモニー」と呼ぶ)を、様々な作家による具体的な作品の例を逐一出しながら紐解いていくというものである。詳しい内容はぜひ読んでいただきたい。
最近僕はこの本に出てくるアニメーションのタイトルをいちいちYouTubeでチェックしながら読み、かつ日本を代表するアニメーション作家である山村浩二氏のブログで紹介されているアニメーション作家をちょっとずつ観ていった結果、30〜40本くらいのアニメーションを観たことになったので、どビギナーではあるけれど面白かったやつを書いておきたい。
山村浩二氏のブログ
技 / ジョルジュ・シュヴィツゲベル
Jeu - Georges Schwizgebel - 2006 - YouTube
アニメーションに興味を持ったきっかけのひとつだったりする。ツイッターでたまたまタイトルをみかけて、調べて観てみたらすげえなと。
シュヴィツゲベルはほかにも何作か観たけど、僕が思うにこの人の作品の魅力は、その偽物っぽさじゃないか。ドローイングアニメーションとしてはかなり無理な動かし方をするのだけど、その結果故意か故意じゃないかは知らないが、完全に滑らかな動きではなく、どこかぎこちない動きになっている。塗りもそうで、特に人物の塗りなどはコマごとにムラがある。山村浩史氏のブログによれば、
通常のセルアニメーションと違い、輪郭や黒いベタはセルの裏から塗って、色は表からペインティンしてく作風。
とのこと(それがどう影響するのかはよくわかりません)。そのブレみたいなものが、現実にみたいに見えるけど確実に現実と違うズレたどこかに作品を位置付けている気がする。不気味の谷っていう話があるけど、この人のアニメーションには、それに近い現実からのズレかたがあるように思う。作品集欲しいんだけど、出たのがもう10年以上前で近作が入ってないのがなあ。また出してほしい。
氷山を見た少年 / ポール・ドリエセン
Paul Driessen - The Boy Who Saw the Iceberg - YouTube
画面を二分割して、片方に現実を、片方に少年の妄想を描くというアイデアが面白いし、その妄想というか夢があらわれては消えてゆく儚さ。
タンゴ / ズビグニュー・リプチンスキー
Tango by Zbigniew Rybczyński (1980) - YouTube
これも最初の方に観て、アニメーションってこんなことしていいのかと思った。ミニマルミュージックみたいな構成なんだけど、アニメーションでやるとまた違う感覚がある。つまり、ある部屋という限定的な空間における、あらゆる時間が同時に存在しまた消えてゆくというような。あの男の子が大きくなった姿がこの男性なのではないか?のような想像力を働かせていくと、一つの部屋の中に無限の宇宙が開ける。
手 / イジー・トルンカ
Ruka | The Hand |Jiri Trnka | Research (1965). - YouTube
こんなに怖い作品は無いと思う。この作品がトルンカの遺作となったということまで知ると、どんな想いでこれを作ったのかなどと考えずにはいられない。
草上の昼食 / プリート・パルン
Eine murul (Breakfast on the Grass, 1987) - YouTube
マネの絵画をモチーフにした群像劇。群像劇といっても、4つのエピソードの関連性は謎めいていて、ストーリー上での繋がりというよりも、現実の4つの異なる切り取りかたというような印象がある。ちょっとつげ義春っぽい世界観に、またちょっと異物感のある音楽のセンスも良いし、そのぐちゃぐちゃが完全な一瞬へ収斂していく様は素晴らしい。ていねいに笑えるオチまでつけてくれる。
ストリート・オブ・クロコダイル / クエイ兄弟
1987 BRUNO SCHULZ'S STREET OF CROCODILES ULICA KROKODYLI by Quay Brothers - YouTube
人形アニメーションなんだけど、クエイ兄弟はもう単純にモンタージュとかカメラの動かしかたがめちゃくちゃ上手くてすごい。そして、基本的には映画的なテンポの中にふと挿入される機械的なカットとかカメラの動きとかがまた面白い。案の定長編映画も撮っているらしい。
そして!なんと!今なら!渋谷のイメージフォーラムで!クエイ兄弟特集をやってるんですねえ。僕も何回か行こうと思ってる。
ざっと列挙してみたけど、アニメーションを色々観ていく面白さというのはやはり、それぞれの作家がまっっったく違うことをしているという点にある。作品ごとに異なる独立した世界を覗き見、独立した秩序を体感する楽しさというか。他のどの分野にもこれだけ幅の広いジャンルはなかなか無いと思う。