酒は燗、肴は刺身、酌は髱

我が身の色をお隠しでないよ、着の身着のまま、ええじゃないかえ

私の好きな藤井聡太ベスト5

abemaTVの七番勝負が終わったタイミングで、藤井四段についての記事を書いた。その中で「ちょっと強くて若い四段というレベルではないし、その辺の“天才”とも訳が違う。将棋界に新たな時代をもたらす棋士に必ずなる」というようなことを書いたはずだが、まさかここまでとは……

あの段階では連勝は11くらいだったはず。28なんて数字は想像だにしなかった。14になったときに、半分だと書いている人がいて、あまりにも気が早いと思ったものだ。20局目の澤田六段戦の奇跡的な逆転勝ちのあたりで、あれ?と思い、26局目の瀬川五段との順位戦を勝ったところで、本気で28連勝するのかもしれないと思った。28局目は、前回大熱戦を繰り広げた澤田六段との再戦で、作ったようなシナリオだと思ったが、拍子抜けするくらいの完勝だった。29局目の増田四段との将棋の終盤の寄せは、「天才藤井聡太、ここに在り」というべき内容で、他の誰にも見えていない世界が彼には見えているんだと思った。

というわけで、私の好きな藤井聡太ベスト5を発表します。

 

 

・29連勝

 

冷静に考えて、デビューから歴代最多連勝記録を更新するというのはおかしい。たとえば、総資産9兆円とか、芸歴90周年とか、想像できる範囲を遥かに超えた数字を見ると訳がわからなくなるものだが、29連勝というのはそういう数字である。9兆円って実際のところ何円?福沢さんが9人集まったのが10000個集まったのが10000個……????というようなレベルで、29連勝って何連勝?もしかして29?と思わざるをえない。

将棋というのは比較的アップセットの起こりやすい競技である。将棋のゲーム性を言うときにしばしば用いられる表現として「悪手の海の中を手探りで泳ぐ」というのがあるが、まさにそれ故にである。局面ごとの平均合法手数は80と言われているが、そのうち悪手でない指し手は多くて3つくらいではないか。あとの77は全てマイナスの手である。かつ、アップセットの起こりづらいテニスやバスケットボールなどのように、小さな得点を積み重ねていく競技ではなく、一手の悪手で勝ちだったはずが負けになるということが当たり前のように起きる競技なのだ。そのため、将棋界の頂点に君臨し続けている羽生善治の通算勝率でさえ71〜2%程度。年間最高勝率の記録が47-8で85%程度(中原誠)。意味がわからないくらい勝ってる人でもそのくらいになるはずなのに、29連勝。しかもデビューから。どうして。内容も伴っており、全く底が見えないので本当にこわい。

 

 

藤井聡太(9)

 

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 この写真すごくないですか。ビリビリ来る。第9回詰将棋解答選手権のときです。藤井くんは8歳のときにはじめて出場してこのときが2回目。つまり第n回詰将棋解答選手権のときに藤井くんはn歳ということになる。わかりやすい。ちなみに僕が藤井聡太という存在を認識したのは第12回詰将棋解答選手権で初優勝したとき。12歳の藤井くんは確か当時奨励会二段だったと思う。

 

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これは翌年の詰将棋解答選手権です。10歳。ああ……

 

加藤一二三九段と藤井聡太四段の対局はプロ公式戦における最大年齢差の記録だったのだが、その驚くべき年齢のスパンからもわかるように、将棋というのは実は1人の人間の幼少期からお爺さんになるまでを線で追い続けられるコンテンツなのです。つい最近、福原愛さんの妊娠がニュースになったときに、相変わらずテレビでは泣きじゃくってる3歳の愛ちゃんの映像が流されていて、一生この映像が使われ続けるのは嫌だろうな、と思ったのだが、でも僕は9歳の藤井聡太くんの写真を一生見続けると思う……

 

 

・46角、64角

 

藤井四段は、角換わりで45(65)の位を取って、46(64)に序盤で角を設置する作戦を好んでいると思う。デビュー当初の角換わり戦で連採していたし、28局目の澤田戦でもこの角を打って勝っていた。攻めの桂馬を跳ねるスペースを消した上に角を手放すという守勢に回りやすい作戦なのだが、藤井四段はこの角を打って先手番でも後手番でも勝ちまくっている。僕はこの角になりたいと思っている。

もっともこれ以外の全ての戦型でも勝ちまくっているのだが…… これまで藤井四段と対局してきた棋士は角換わりの作戦を練って研究をぶつけるという方法を取る人が多かったが、誰も勝てなかったので、そろそろ横歩取りなどを指してみてはどうかと個人的には思っている。横歩取りは今までに1局も無いのでみてみたい。

 

 参考図 藤井-澤田(王将戦) 46角

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・ジグソーパズル

 

今日(6月30日)、藤井聡太グッズとして、ジグソーパズルの発売が発表になった。なぜ。なぜジグソーパズルなのか。グッズ第一弾は扇子。これは棋士なら当たり前のグッズである。第二弾はクリアファイル。これもまあわかる。なぜその次がジグソーパズルなのか。

 【楽天市場】藤井聡太 【ジグソーパズル】:公益社団法人 日本将棋連盟

 

 

・深浦九段戦 感想戦

 

やべえと思った藤井聡太の指し手はいくらでも挙げられるが、対局中は基本的にどんなに驚いても顔には出さないようにするものでもあるので、相手(トッププロ)の反応まで含めて強烈に印象に残っているのは、例の炎の七番勝負第5局、深浦九段との感想戦である。深浦九段の指摘する終盤の様々な変化を、藤井四段がことごとく無言で即座に詰ます。挙げ句の果てに打ち歩詰めかと思われた変化で回避手順を即座に指摘する藤井四段。深浦九段と解説の橋本八段は笑うしかないという感じで進行していた。その打ち歩詰め回避手順を指摘するとき、盤に手順を並べる前に藤井四段が右手を盤の上でササッと動かして詰み手順を(彼にとってはその手順を示すのに十分な動作だったのだろう)表現するのだが、その手の動きが…… ごくごく僅かにではあるが、天才の中の天才の頭脳の回転の一部がそこにあらわれているように思えて戦慄したものだった。

 

 

 以上、私の好きな藤井聡太ベスト5 でした。

 

 

(あと、このブログは月に最低2回更新するという目標でやっていて、この記事は6月の2本目にする予定だったのですが、現在6月30日27時53分、つまり日付変わって7月1日午前3時53分となってしまったことをここに懺悔します)