酒は燗、肴は刺身、酌は髱

我が身の色をお隠しでないよ、着の身着のまま、ええじゃないかえ

私、梅が好きです。

 

春になれば梅の香りはかげるだろうって?

ねえ、馬鹿言っちゃいけないよ。

春になったと思ったら、梅はもういないんだ。

もう誰も立春で春だなんて思やしない。

 

あの、えもいわれぬ香り、

ちょっと甘くて、少し酸っぱくて、控えめに叫んでいるようで、周囲を包み込むようでいて、近づくと儚く散ってしまう、あの花粉の香り。

そういうのは悔しいんだけど、ちらっと鼻腔をくすぐるだけで生きている幸せを感じてしまう。

馬鹿やろう!

 

でも、梅の一番いいところは、私に言わせれば香りじゃない。

待ち遠しいあの可愛い花でもない。

何って、幹です。

ゴツゴツと黒くて、曲がりくねって枝分かれしている、あの幹です。

 

桜なんて面白くもない。ズドーン。それだけ。

梅はそれぞれの形が出る。

黒くてゴツゴツして、不恰好で、幹もほそい。

でも、眼を惹きつけてやまない枝ぶり、香り。地味なりに開く華がある。

それは桜なんかじゃそもそもあり得ない、儚くて不安定で、その上に立った絶妙なバランスのおもしろさです。

枝ぶりが個体の特性に寄って、儚いからこその混乱、その中の調和。

それぞれが決定的な欠点と素晴らしい長所を両方持っていて、その共存が大きく見てプラスの方向にある、そういうものは側から見ても素晴らしい。

最初から綺麗だとわかっている人工物はそれ以上の機能をなかなか果たし得ない。

 

梅は一番美しくはないかも知れないが、一番可愛いと私は思う。

でもね、梅の香りの香水とか、人工物ってあんまりないんです。

哀しきかな文明社会。

されど、美しきかな我が人生。